こんにちは、やっしです。
通信生から、こんな質問をいただきました。通信コース生に配信しているラジオでお答えしたものを、こちらでも公開していきます。
──高校3年生からの質問です!
「忘れることができるのは人間だけと聞いた事があるのですが、動物はなぜ覚えたことを忘れないのでしょう?例えば、動物は忘れる必要性が生まれるほど記憶を貯蔵できないからなのかなと思ったのですが、やっしの意見を聞かせてもらいたいです!」
とのことですが、やっし、いかがでしょうか。
武田 康(以下、やっし) そうですねえ、「忘れる」っていうのは、時間の問題もあるじゃないですか。動物はそんなに長い間生きてないというのもあるかもしれませんね。
──たしかに、虫とかは寿命が数か月のものもあれば、セミは2週間で死んでしまいますからね。
やっし 鳥で、「3歩歩くと忘れる」という話があります。
その中でも意外と寿命の長いダチョウは、寿命が長いので、生命体として、(脳の働きじゃなくて)免疫記憶という点では、これは優れた生物なんです。 免疫記憶ができないと感染症でコロコロ死んじゃいますから。
ダチョウの抗体の研究が結構進んでいて、今だと京都府立大学の学長はダチョウの権威なのかな。 ダチョウを府立大学のキャンパスを散歩させていると聞いたことがあります。
ただこのダチョウ、甚だしく脳の活動的には忘れて、世話をしてくれている学長や研究室のスタッフのことも忘れてしまって、毎回攻撃されるそうです(笑)。
──ええ~⁈
やっし 他にも、ダチョウの背中に乗ると、最初のうちは嫌がるんですけど、しばらくすると乗られていることも忘れてしまうんですって(笑)。
──そんなことあるんですか? それは、脳の記憶よりも身体の記憶を優先させているということなのでしょうか?
やっし それで進化のプロセスで生き残ってて、あんなに身体の大きな鳥になったということですね。
感染症に対する記憶っていうのは非常に重要だけど、どこにえさがあるかなどの個体同士の関係性というのは二の次にされてきたということなのかなあ。
──人間の場合はどうなのでしょう?
やっし 人間の場合は特殊で、忘れる/覚えるにかかわらず重要なポイントは、「眠る」っていう行動だとよく言われますよね。
レム睡眠とノンレム睡眠とあって、レム睡眠中に日中に経験したことを短期記憶から長期記憶に移行させるとわかっているじゃないですか。
人間はそうやって記憶するということを利用して生きてきたんですけど、他の生物にはない特別なものを持っています。
それは、verbal、つまり「言葉」による記憶ですね。
ユヴァル・ノア・ハラリ氏は著書『サピエンス全史』の中で、人類には大きな3つの革命があったと言っています。
最初の革命が「認知革命」と言って、言葉を使ってコミュニケーションを始めたことであると。
そうやって「言葉」を使って抽象概念のやり取りなんかするようになると、実はその時に、「宇宙はどうなっているか?」などの問いから神話が生まれたとされています。
そうやって「言葉」を使って「物語を作る」というとんでもない能力を人間は得たので、「ストーリーとして忘れない」という記憶の仕方を覚えました。
その後、世界のあちこちで、文字を書く竹簡、そして紙が開発されました。
ヨーロッパの方では、羊皮紙(ようひし)という羊の皮で作られた紙もあったみたいですが、これは後から墨を消せるということで改ざん可能だったみたいです。
一方、紙媒体はその記録の安定性から、藤原定家が書き写したであろう源氏物語の写本が発見されたりと、これも人類としての長期記憶と捉えることもできます。
──すごいですね。1000年前をリアルに感じれるっていうのは。記憶喪失とかって、どうなのでしょう?
やっし それは、脳内の記憶にアクセスするためのプロセスが失われて、記憶自身は保存されていると言われています。
例えば、催眠療法などで取り出せるという人もいますね。
脳の中の記憶がどう維持されているかっていうのは、「脳言語」というコンピュータのプログラミング言語みたいなものが実際の脳内にもあって、それを解明しようというアプローチも実際あるんですけどね。
将来的には、その「脳言語」を解明して脳の中の全ての記憶を吸い上げてダビングすることも可能じゃないかとも言われています。
──自分の脳の記憶をデータとして保存・蓄積できるっていうことですか?
やっし それには倫理的問題も絡んできますね。
そういう科学技術っていうのは諸刃の剣ですから。良いことに使っていきたいですね。