もしも森林が消えたら?

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武田 康

武田 康

東大大学院卒。大学院時代は世界レベルの研究に従事する。化学の鬼才。長年、大手予備校で理系科目の指導を歴任。塾生からは「雑談したらIQが上がった」、「3時間の授業で偏差値が10上がった」という体験が続出する。南極老人いわく「彼のどこまでも深い愛情と忍耐による面倒見の良さは、塾生の一生の宝となるだろう」。

こんにちは!やっしラジオの時間がやってまいりました。

パーソナリティのゆばーんです。

今日は、通信生ラジオネーム“ささらだに”ちゃんの質問に答えて頂きたいと思います。

「いつも面白くて、ためになるラジオをありがとうございます。武田先生に質問です。私は部活動で、枯死林(こしりん)の土壌動物の研究をしています。その活動を通して、森林の再生や保全に興味を持ちました。大学で、造林について学びたいと思っています。

そこで質問です。もしある日、世界から突然森林が消えてしまったら、どうなると思いますか?

私は、

酸素がなくなって植物以外の生物が死ぬ

②気温がとても暑くなる

③すごく乾燥して火事になる

④雨や台風が激しくなる

⑤きのこが食べられない、

以上の5点が思い浮かびました。他にもどんなことが起こりそうか、教えてほしいです。」

とのことです!

 

──世界から森林が消えてしまったら、酸素はなくなってしまうのでしょうか?

やっし 酸素の発生というのは、確かに植物の光合成によりますよね。空気中の酸素濃度は、今は20%ですね。その空気中の酸素濃度が8%を割ると、人間は失神すると言われています。そして、12%を割ると火災が起こりにくくなるんですね。山火事が起こらなくなる可能性はありますね。

実は、その酸素濃度の仕組みを使って、美術館などで火災が起こった場合、酸素濃度を12%くらいまで下げて消火しつつ、逃げ遅れた人の命は保つという消火法が考えられているみたいです。

──へぇー、すごいですね。そういった角度からの消火法もあるんですね。

やっし そうなんです。美術作品に放水してダメージを与えることもなく、人命を損なうこともなく消火が出来るというアイディアはあるみたいですよ。

酸素濃度が8%を割ると人間は失神してしまいますが、人間が失神するということは、当然哺乳動物も全部失神してしまいますから。

──そもそも森林がなくなったら、酸素濃度がどうこう以前にに山火事は起こらなくなりますよね。

やっし 森林がなくなるというのを、植物の活動がなぜかぱたんと止まってしまう「立ち枯れ」という状態と解釈する、つまり一瞬で灰山になってしまうという解釈をすれば、燃えないことになりますね。

例えば突然、宇宙から謎の放射線が降り注いで、その放射線が森林を立ち枯れさせるものであれば、人類はそれをかわせる方法がほぼ無いですね。

(立ち枯れ・・・草木が立ったまま枯れてしまうこと。)

──人間は遠い未来、その末路を見るということになるのでしょうか…。

やっし 謎の植物ウイルスが全ての樹木にかかるとかね。

でも、桜にうつる病気が梅にうつらないということはありそうですから、全てが感染するということはなさそうですし。全ての植物に共通のウイルスというのは、あるか分かりませんけれど、植物ウイルスといえば、たくさんありますからね。

有名なウイルスでいえば、教科書にも載っている「タバコモザイクウイルス」というのがあって、タバコの葉っぱがモザイク状になるという植物の葉の病気なんです。

それが世界でめちゃくちゃ流行ったことがあって、「世界からタバコが無くなれば良いのにー。」と思ったことはありますね。

──森林がなくなると他には何が起こるでしょうか?

やっし 水中の海藻なんかはどうなりますかね。

ジュゴンの食べ物が無くなるとか、魚の産卵場所が無くなるとか、一気に生態系にダメージがくるでしょうね。

──大きく変わりますよね。土砂崩れも起こりやすくなるんじゃないですか?

やっし 確かに、保水もできないでしょうし。砂漠化も起こります。水源地が保全できないから、水をめぐって奪い合いの世界がやってくる可能性もありますね。今日の青々とした山という、いわゆる癒しの風景は消え去るんじゃないでしょうか。緑の山がなくなりますからね。

──海も、青く綺麗なままではなくなるかもしれない可能性もあるんですか?

やっし 水分子は基本は粒ですからね。光合成のサイクルが海藻で起こっているので有機物を吸収しなくなってしまうとすれば、一気に汚濁がすすんで海の透明度が下がりそうですね。また有機物が使われない影響で赤潮ばっかりになってしまう可能性はあります。

そして、いきなり植物がなくなったら、動物が動物を食べて生きていくしかなくなります。再生産が起こらないことによる影響も大きそうです。

(再生産・・・生産されたものを使って、また新たな生産がつぎつぎに行われて行くこと。そういう過程。)

──酸素が尽きるかエサ(有機物)が尽きるかのどちらかになりますかね。どっちが先かってことですよね?

やっし そうですね。もし森林がなくなるという現象が一過性の災害によるものであれば、土壌や水源が残っていて、農業が再開ので復興のチャンスはあります。地上全ての植物が死滅しても、シードバンクや北欧の核シェルターの跡地に色々な種子をキープしてるので、そこから人類は再出発できる可能性はありますね。かなり人口は減りますけれども。

──氷河期に勝る大量絶滅が起こりそうです・・・!

やっし 氷河期は、人間は乗り切りましたよね。

──たしかにそうですよね!人類は氷河期をどうやって乗り切ったんですか?

やっし 「都合よく」ですね。最後の氷河期は、まだ狩猟時代ですよ。まだ農業すら始めていないです。むしろ、まだ土地が広がってるので、「旅をしようぜ!」といって東に向かって、ユーラシア大陸からアメリカ大陸に進出した、モンゴル人の祖先がいました。北アメリカ大陸や南アメリカ大陸、に住む場所を広げていった彼らが、ネイティブアメリカンとかインディオと呼ばれる人々に出会ったのです。

氷河期で、大陸氷床とかが分厚くて、海面が下がっていましたし、ベーリング海峡も完全に凍結しているんで、ユーラシア大陸からアメリカ大陸に渡れたということですね。

その後、日本列島にもゾウと一緒に人類も来てたんじゃないでしょうか。中央大陸から。

──それって、氷河期は地球どこでも歩けるからって、旅していたら、途中で海の水が溶けて、戻れなくなったということですよね。

やっし そこで魚を取る生活を始めた人類もいるじゃないですか。狩猟採集生活の中には、魚を取ることも含まれますから。釣り針に、“返し”っていうのがあるんですね。あれの発明はすごいですよね。よく思いついたなー、そして作ったなー、と思いますね。

──作る方がすごいですよね。今だったら分かりますけど。何で作ったんですか?

やっし 動物の大腿骨(だいたいこつ)を加工したのです。今でも、サバイバルキットの中には、必ず釣り針を入れているんです。返しと手ぐすが入れてあります。

──いざというときには、魚を釣って生き延びてくれということですね!

やっし 竿は何かで用意してくれと(笑)。でも、釣り針だけは、自作できませんからね。その後、気候の温暖化で農業が始まって、定住すると今度は逆に色々なところに行けなくなります。そこにあるものを守るから、そこで土地の所有の概念とかが生まれるのです。そのタイミングから、自然との付き合い方も大きく変わってくるはずですよね。

でも、世界の植物が一斉に枯れると考えたら、恐ろしいですよね?

光合成の暗反応で必要なルビスコという酵素が世界で一番多くある酵素なんですけれども、どんだけ植物あんねんという話ですね。

ちなみに、よくある誤解らしいんですけれど、「アマゾンの豊かな植物が地球を支えている」というのは、嘘ですね。アマゾンは植物が多すぎてその恵みで動物がめっちゃいるんで、そのメリット・デメリットはトントンなのだそうです。

──そうだったのですね!

やっし アマゾンの光合成の酸素は、そこに住む動物を支えるだけでいっぱいいっぱいだそうです。そこから出たものが、海を豊かにして、海が地球を支えるらしいんですけど。

──ちなみに、どこの森が一番貢献しているんですか?

やっし 「どこが支えている」ではなくて、『危うい共生関係』というほうが正しいですね。どこの森も水源も山も大切にしなきゃいけません。それが実は私たちが住む地球なのかな、という気がしています。

──もう一つ質問を頂いています。武田先生の思う、日本の森林や林業の良いところと課題は何ですか?また、解決策があったら知りたいです。

やっし まず、人手がないのが絶望的ですよね。いわゆる第一次産業というやつです。

それは、農業・林業・水産業とかって学校の社会科で習いますよね。JAとJFという組織があるんですけれど、JAは、Japan Agricultureかな。農協のことですよね。JFは漁協かな。

ところで、森林共同組合ってないはずなんです。林業に従事されている方の人数が少ないから、多分JAに組み込まれているんだと思うんですね。日本の国土の75%は森林のはずなのに、「このまま大丈夫か?日本は・・・」って思いますね。

──JAに組み込まれちゃうくらい少ないんですね・・・。

やっし 実は、森林というのは、利用するときに手入れをしないと上手く利用できないんですね。ただ、その人手がなくて、なぜ人手がないのかというと、木が売れないからということなんです。

太平洋戦争が終わって、国を復興させるにあたって、建築資材として住宅を建てるために、人工植林をたくさんしたんですね。ところが、人工植林をして30年後に、育って資材として使える木になったときに、気づくと『東南アジアから輸入した方が安いじゃん!』ってなっていた訳です。

あとは住宅の建て方が、カナダやアメリカの2×4(ツーバイフォー)工法のようになってて、日本の木材が実は適してなかったりするみたいなんです。それで「売れない」となったんですね。 

──ということは、植えたのに、もう使われずに放ったらかしになってるんですね。

やっし 手入れしようにも、売れないものを手入れしてどうするのかと。そこで植えたのが、杉なんですよ。スギを大量に植えて、スギ花粉が舞い散っているんですね。一体、スギをどう使えば良いんでしょうかね。

経済として動く林業っていう。山を支えないと農地が支えられなくて、農地を支えられないと都市が支えられないという風な、『山の高きから海の低きへ』という標高の構造を考えると、そして面積的にいうと、大事な山というのを考えなきゃダメだけど、管轄するのは『林野庁』でしょうね。省庁の庁どまりですよね。

──国の70%を占めているのにですか?

やっし そうですね。

僕のいた東大にも、農学部に林業学科ってありましたけれど、林業学科からダイレクトメールがくる人は、成績が不良の人って決まってました。僕にもそのメールが届きましたけどもね。(笑)

「お前、うちくらいしか来るところ無いやろ?」って。「いや、行けますよ他に!」って反発しましたけどね。(笑)

──あはは(笑)。人気ないってことですか?

やっし うん、そういう感じですね。大学生に人気がないということは、そこに知恵を回す人物が育たないということで、「こういうことをやって行きましょうよ!」という若者が来なければ、なかなか動かないでしょうね。

ゆばーんは森林科学科出身ですが、どうでしょう?

──私は自ら積極的に、森林科学科に進みましたけどね!笑

やっし ところでちょっと前に話に挙がっていたのが、森林から取れた木材と亜臨海状態という水を使って、ブドウ糖グルコースを作るとかっていう、すげートリッキーな研究をしている人がいまるようですね。

その林業資材を使うというのは新技術を取り込みながらなんとか進んでいっていますが、やっぱ花形のスギの立派なお家というのは、ライフスタイルに合わないんですよね。見通しが悪くなってっていうね。

──スギ材を使って家が建てられることは、あまりないんですか?

やっし ヒノキとかはよく聞きますけどね。スギやヒノキって言いますけれど、そんな立派な日本建築は、あまり建てられないんです。「この近くでお家建てたの?はいはい、え…もうできたん?」みたいな感じで、あんなペースで、杉ではお家は建てられませんよね。職人が木の機嫌を見ながら建てていくみたいな、そんなイメージがありますから。そういう技の伝習もされてないでしょうし。

そういう林業を何とかしようっていうのを題材にした映画もありましたよね。

日本映画で、有名な若手の女優さんが出てましたけれど、興行的にパッとしなかったみたいですから、やっぱり若者の心を打つものが無くて、残念かなぁっていうのがあって。

自分の口に入るものですから、どうしても農業・水産業は気にしますけど、「自分たちの国土を支えているのは、林業だよね。」っていう意識を持ってくれると、これから大学生になる人は、ひとつのオプションとして、選択肢として、目の付け所として、ありかな〜という気がしますね。

──林業にしっかり栄えてもらって、せっかく70%もある森林だから活かしたいですよね。もったいない。スギの人工林にしちゃってから、生態系のバランスが崩れてしまっていると聞いたことがあるんですけれど。

やっし あまりにもコントロールしすぎたということですね。そういうのをきちんと学術的なアイディアを出して、実験したりとかっていう、そういう人材も必要だから、若者は志を持ってチャレンジして欲しいかなと。

森の場合、せめて里山っていうところから始めたいところがありますね。

里山はそれなりに人気があるんですよ。『となりのトトロ』っていう。あれは里山でしょ?その里山がピンチになると、『平成狸合戦ぽんぽこ』ですね。それが本当の山になっちゃうと、『もののけ姫』になっちゃうのかな。ジブリで例える「山と人里の関係」みたいな感じですね。

根本的に森とか森林というテーマについていうと、日本とヨーロッパは全くイメージが違うんで。日本は面白い森林観を持っていまますから、その日本らしさを活かして、取り組んでほしいかな。

ヨーロッパの森っていうのは、怖いところでしかないんですよ。魔女が住んでて、子供たちを取り込んでという。

──日本人も、森林をなめてるわけじゃないけれど、“畏(おそ)れ”を抱いているところはありますよね。怖い方じゃなくて。

やっし 畏れ敬い、共存するというような感覚は持っていると思いますね。もちろん、『姥捨て山』みたいなのも昔ありましたけれど。「山と共生する」っていう考え方は常にある感じですよね。そういう独特のものが今も伝わっているならば、そういう日本らしさを支える方法として捉えられますね。

例えば、奈良県の三輪山は、山自身が御神体って、すごい発想ですよね。

──大神神社ですね。

やっし そういう不思議な発想というか、日本人の独特なものを持っていますから、見つめてほしいかなと思いますね。

 

──ということで、今日は森林についてのお話でした。

日本独自の森林観を大事にしていきたいですね。

またどしどし質問を送ってください!

それでは、今日はこの辺りで終わりたいと思います。

ありがとうございました。