お茶の科学

この記事を書いた人
武田 康

武田 康

東大大学院卒。大学院時代は世界レベルの研究に従事する。化学の鬼才。長年、大手予備校で理系科目の指導を歴任。塾生からは「雑談したらIQが上がった」、「3時間の授業で偏差値が10上がった」という体験が続出する。南極老人いわく「彼のどこまでも深い愛情と忍耐による面倒見の良さは、塾生の一生の宝となるだろう」。

こんにちは!パーソナリティのゆばーんです。

今日は、やっしに「お茶の科学」について、質問に答えていってもらいたいと思います。

先日、塾生との話の中で、お茶の話で盛り上がってたと伺いました。

 

武田康(以下、やっし) よろしくお願いします。

Tea Partyといったら、政治の話になるんですけどね。

Teaはどうしても、上流階級がお屋敷で飲むっていうイメージがありますよね。

 

──たしかに、海軍の兵隊さんが優雅にお茶を飲んでいる姿はイメージしにくいですね。

 

例えば、軍の幹部になって、艦長がゲストをもてなすということならありそうですけど。

コーヒーは、水兵さんが淹れるというイメージがあるので。

軍艦に乗っている人は、夜「眠いよー」って言ってたら、岩にぶつかって沈むか、敵に打たれて死ぬかっていうことになりますよね。夜が勝負ですから。

 

──なるほど、コーヒーを飲んで目を覚ますということですね。

 

やっし 目覚ましのガンっとしたコーヒーをね。

コーヒーは濃く出しても飲めますから。紅茶は濃く出したら渋すぎて飲めないでしょ。

 

──確かに。

 

やっし コーヒーは水が悪くても飲めますけど、紅茶は繊細なので、水が悪いと美味しく飲めませんから。

 

──そうですね。じゃあ、コーヒーは水質がそろっている状況じゃなくても、楽しんで飲める飲み物だということですね。おいしさというよりかは、目が覚めるというカフェインの効能だったりとかを重視していると。

 

やっし お茶であれば、紅茶も緑茶も全部目が覚めるんですけどね。昔煎茶って、茶肆ゆにわなんかでもそういうのを提供してもらえますけど、煎茶も目が覚めるんで、ペリー来航のときの川柳があって。

『泰平の 眠りを覚ます 上喜撰 たった四杯で 夜も眠れず』っていう歌があるんです。

当時売れていた煎茶の銘柄が「上喜撰(じょうきせん)」っていうやつで、それと、ペリーの蒸気船っていうのをかけて作ったんですね。

「たった四杯」というのは、蒸気船が浦賀に4隻で来ましたから。

浦賀に来た4隻の蒸気船とかけたんですね。上手いこと考えるなぁと、思いましたね。

そうやって、緑茶・煎茶を飲んでいると目が覚めちゃうから、幼稚園のお弁当のお供は「ほうじ茶」っていうのが定番ですね。

 

──へぇー、それは寝れなくなってしまうからということですか?

 

やっし そうです。ほうじ茶は、焙烙(ほうろく)といって、茶葉を乾煎りするという過程がありますよね?その乾煎りをすると、寝られるようになるんです。何故だと思いますか?

 

──カフェインが熱で揮発して、飛んでいっちゃうからですよね?

 

やっし 正確には“昇華”といいますね。

 

──なるほど、揮発というのは、気体から出ていくことですもんね。

 

やっし そうですね。昇華させて、カフェイン量を減らしていくんです。

同時に、焙じたおかげでより香りがするっていう面もありますね。

ちなみに、カフェインを昇華させたものを鼻から吸い込んだら、鼻の粘膜が傷つきますから気をつけてくださいね。

 

──そうなんですね。

 

少し話は変わりますが、紅茶っていうのは、よく「発酵が進んだ」って言いませんか?

でもあれ、実は間違ってるんです。

 

──完全に発酵しているというイメージがありました。発酵させておけば腐らないから、紅茶は保存を効かせる為に発酵させているというイメージだったんですけどね。

 

やっし 確かに、インドで作ってイギリスで持って帰るのに、途中で傷むと考えたら、そう考えることも分かりますね。でも実は、「発酵」じゃないんですよ。

「発酵」っていうのは、本来微生物の働きですよね?

有害なものが出来ると腐敗で、無害な場合であれば発酵といいますね。

例えば、納豆菌が発酵して納豆のネバネバが出来たり、牛乳が固まるのは乳酸菌の発酵ですけれども、それらはどちらも微生物の働きなんです。

紅茶は完全発酵茶と言われており、微生物は働かないんですね。

ウーロン茶の一部は、途中で微生物をつけ直して発酵させる「後発酵茶」という種類もあるんですけれども。昔よく塾生に提供していた「碁石茶」というお茶は、「後発酵茶」ですね。

ウーロン茶になってから乳酸菌が働くという種類のお茶ですね。

実は「お紅茶」っていう、「ブラックティー」とかってイギリスは言いますけれど、あれは酸化還元反応が終わった後なんですよ。

 

──それは緑茶の緑の色素成分が、酸化したものということですか?

 

やっし そこに、「ポリフェノールオキシターゼ」っていう酵素が働いて、じっくりと酸化反応が進んでいって、ポリフェノールという抗酸化物質といわれているものが変化していって、あの紅茶の色と香りになっているっていうことです。

緑茶はそれをさせたくないから、茶葉を摘んでくると、蒸して酵素を失活させるんです。

それに対して紅茶は、揉むだけで細胞を壊しておいて、大根おろしにして酵素が働くように、酵素が働く環境だけ整えて「ええお茶にしてくださいよ、酵素さん」って。

微生物の働きではないですね。エンザイムっていう。

だから、緑茶と紅茶の茶葉の形が違うのは、そういったプロセスの中で、酸化還元反応が進んで、形が変わっちゃっている感じですかね。

 

──紅茶って、くねくねっと、くしゃくしゃっとした形のものが結構多いですよね。

 

やっし 緑茶は、シュッとなっているのが多いですね。それは、酸化還元反応がいたった姿が紅茶なんです。おかげで、ジャンピングで泡を包みやすくなったりしますね。ジャンピングっていうのは、「溶存(ようぞん)酸素」だったりするんですよね。

 

──ジャンピングっていうのは、お茶を淹れるときに、茶葉にお湯を淹れて蒸している間に、その中でクルクル茶葉が回転することですよね。

 

やっし クルクル回るのは、茶葉に泡がついているから、浮かんでいって茶葉が広がりながら泡と離れてまた沈んだりという動きをするんです。

あれは、溶存酸素とか溶存窒素とかいうものなので、汲み置きでずっと置いておいた水だったら、あまりジャンピングしないんですね。勢いよく蛇口から「ジャーっ」と出したときに、たくさん出るものなんです。

 

──じゃあ、お茶作るときに、電気ポットに入っているお湯を使うと起こりにくいということですか?

 

やっし 再沸騰を繰り返して使い回ししていると、だんだん酸素が減ってきますね。

 

──へぇ~、そうなんですね。じゃあ、汲みたてのお水で作った方が絶対に美味しいですよね。

 

やっし 『蛇口から勢いよく出した方が良いですよ。』って、お茶の専門店で教えてもらったことがありますね。だから、ジャンピングは、ペットボトルのミネラルウォーターというよりも、勢いを出した蛇口の水の方が良いみたいですね。それか、『バブリング』という、空気を流しこんだやつをポットで温めながらぼこぼこぼこっとする方法もありますね。

 

──たしかに、汲みたてのお水で作った方がフレッシュだなという気分で飲んではいたんですけれど、科学的に説明したら、ちゃんと理由があるんだなと思いました。

ちなみに、何でジャンピングしたら美味しくなるんですかね?

 

やっし 葉が上手ーく広がるからですね。

そこから、ふわーっと、香りの成分、旨味の成分、渋みの成分とかが出てくるんです。優しく広がった方が、美味しく味が出るということですね。「味の成分、出てこい、出てこい。」ってかき混ぜてたらイヤですよね。(笑)そういったお茶の沸かし方は、見たことがないですね。

 

──蒸している間にぐるぐるかき混ぜているのは、見たことがないですね。やっぱり一貫して、紅茶は繊細ってことですね。使うお水にしても、作り方にしても、一個一個注意してやってあげないと、美味しい紅茶にならないと。

 

やっし そうですね。それをカップに注いでいくわけですけれども、レモンティーってあるじゃないですか。紅茶にレモンを入れると、お茶の色が薄くなるんですよね。

一方で、自然な甘みをつける為に、はちみつっていう良い甘味料があるじゃないですか。蜂さんが頑張って花を集めて『こっちに花あるでー。』ってダンスして、『行てまえー!!』、それから、「乾けー!!」っていって、巣の中で乾かして、とろ~んって出てくるのがはちみつさんですけれども。あれを入れると黒くなるんですね。

 

──関西弁なんですね。(笑)あれは不思議ですよね。何でなんですか?

 

やっし ポリフェノールの中には、色素っていうのがあって。色素ってけっこう実はプロトンっていうH⁺がくっついたり離れたりするサイト部位っていうのがあって、くっついた形だと色が淡くて、離れると色が濃いという物質があるんですね。それを上手く使うと、pH指示薬にも使えるんですけれど。

実は、天然の指示薬としてブドウ果汁を石けん水と混ぜると、すっげー残念な色になるんですよ。美しい紫色になるかと思ったら、「うわー何これ・・・、灰色なの?緑色なの?」みたいな。

昔中学生と実験したときに、果物の汁だともったいないから、100%果汁をスーパーで買ってきたんです。凍結して溶け出すときに濃い果汁になるので、それを使ってそこにレモンを入れたり石けん水を入れたりして、色が変わるのを見たんですけど、ほぼほぼ残念な色になってましたね。(笑)

アルカリ性になるとダメなんだ・・・と思いました。

 

──へぇー、そうだったんですね。

 

やっし レモン入れると酸性になるっていうのは、予想がつきまますよね?酸っぱいですから。

実際それがレモンを入れると、レモンが持ってるプロトンっていうのが、紅茶の色素に取り込まれてしまって、OHの形に固まってしまった。「俺、色うすなんねん」と言って、色が薄くなるんです。


通常だとHが外れてて、O⁻っていうフェノールのフェノール性ヒドロキシル基っていう形になってて色が濃くなってんねんけど、じゃあそれでそこに「はちみつだー」って甘みをつけて色が濃くなったからといって、アルカリ性になったかというと、そうではないんですよね。

 

──化学反応が起きてるんですか?

 

やっし そうなんです。沈殿生成反応が起こってるんですね。

実は、蜂が集めてきたはちみつには、意外と鉄分があったりするんです。その鉄分の多さで、はちみつの花毎に色が変わるから、そこがちょっと分かってなくて。そばのはちみつとかは、真っ黒なんですよ。

 

──たしかにそうですね。ゆにわマートでも、生はちみつを扱ってるんですけれども、栗のはちみつはすごい黒くて。

 

やっし アカシアなんかはすごい淡いでしょ?

 

──淡いですね。

 

やっし 最近はちみつの専門家が「この色の場合はこの花で・・・」というのを実験したみたいなんですけれど、すごく面白かったですね。鉄分の違いなのかもしれませんが、色が違ってて。

実は鉄分って、お茶と相性が悪いんですね。お茶の渋み成分に「タンニン」という成分があって、タンニンと鉄が出会うと、「タンニン鉄」っていって、ほぼ絶望的に溶けない黒い血になるんです。

貧血に対して鉄分を補充するお薬には、「絶対にお茶で飲まないでくださいね。」って、よく言いますよね。それは、飲むと胃の中で沈殿して、吸収されないからなんです。

よく見ると、はちみつを入れた後に黒いものが沈んでるなーって思ったら、それはタンニン鉄ですね。まぁ、はちみつで鉄分補給するほど、そんなに多くは取れないですけど。目に見えるくらい沈殿が出るっていうことは、それなりに鉄分はあるのかなぁとは思います。

 

──お茶に関してなんですけど、香りと渋みが両方出てくるじゃないですか。その抽出されてくる条件っていうのは、香り成分と渋み成分で違うんですか?

 

やっし 香り成分は、まずお湯で抽出する場合は、ふつうは水に溶けやすいまま出てくるんですよね。紅茶だとイメージしづらいんですけど、コーヒーだとイメージしやすいですかね。

ドリップコーヒーっていって、少しずつお湯を注いでコーヒーを出していきますよね。

あれは本来、一滴一滴の味が違うんですよ。最も水に溶けやすい部分がまず最初に抽出されるんです。

 

──最初の方はめっちゃ濃いですよね。

 

っし あれ実は、コーヒーオリゴ糖とかっていう成分があって、最初の5滴だけつくってコーヒーシロップを作ってかき氷を作る店とかあって、かき氷が3000円くらいするみたいですね。

「マジか!」って思いました。(笑) あとのコーヒーはどうするんだろう・・・って、気になりましたね。

 

──最初の部分だけって、高価な感じがしますね。(笑)

 

やっし ゴールデンドリップとかもあったりして、それはカラークロマトグラフィーっていう世界ともつながっていて、抽出されやすいものが抽出されていくんです。

雑味は引き出さずに、良い味だけ引き出すっていうのは、紅茶にもコーヒーにもテクニックがあるかなって気がしますね。

さっき言ったように「味の成分よ、出てこい出てこい。」ってやっているのだと、雑味まで出して大変なことになってしまいますから。

温度と蒸らし時間で「これが大切」って伝えられているのは、実は経験則で、「ここでいけば良い香り、よい旨味が引き出せるけど、いやらしい雑味が出ないよ」っていう見切りが、マダムやお姉さんから伝えられて、若き乙女も学んでいくんですね。

 

ちなみに、水を変えるとすごいことになって、超純水といって、理論上の純水に近い、ほぼ何の不純物も含まない水を作って、コーヒー淹れたら、えらいもんが出来ました。(笑)

「何、この味?」味わったことない・・・なんか危険な香りがする、と。(笑)

「二度とやらないでおこう・・・やってしまったな・・・」ってなりましたね。(笑)

 

──やったことあるんですか?

 

やっし 一度だけやりましたね。

 

──超純水ってことは、抽出しすぎてしまうんですか

 

やっし 普通のお湯では出せない成分が出てきたような気がしました。(笑)

「あれ?いつもと同じ豆なんだけど、ちがうコーヒーになってるぞ・・・」と。

 

──それは渋みが出てるのか、苦みが出てるのか・・・

 

やっし 分かりませんが、コワかったです。(笑)

 

──ええー。(笑)ちょっと飲んでみたい気もしますけれど、怖いですね。(笑)

 

やっし ネットで検索すれば、売ってそうな気もしますけれど。

 

──ちなみに、ペットボトルは溶かさないんですか?

 

やっし 流石に溶かさないですね。ペットボトルを溶かすのは、超臨界水くらいでしょう。

 

──私も、よく塾でお茶淹れたりすることがあるので、勉強になりました。

塾では、スクーリングやカウンセリングで来てもらったときに、お茶をいつもお出ししているんですけれども、それはそれはすごく美味しいお茶で。

インドのマカイバリ地方で大切に無農薬で育てられているお茶をいつも使っているんですけれども、

そういった知識も知ってから淹れると、よりお茶と仲良くなれるというか、美味しいお茶が淹れられそうな気がしてきました。

 

やっし どうもイギリスの場合は、同じ島国といっても水の質が違うらしくて、イギリスの水で淹れると、日本よりも濃いお茶が出るので、『ブラックティー』というらしいって、聞いたことがありますけどね。

 

──イギリスの水は硬水になるんですかね?

 

やっし 日本の水は、川の勾配がきつすぎて、硬水になれないうちに海に注ぐ感じですよね。

それだったら、ヨーロッパ大陸とか、すごく柔らかい気がするんですけれどね。

ヨーロッパの硬水も手に入りますから、「イギリスのお水入れるとどうだろう」とか、「フランスのお水で淹れてみるとどうだろう」とか、調べてみることは出来るかもしれないですけれども、まぁ美味しく頂くことが大事ですね。ちょっと茶目っ気でやるのは、たまには良いかもしれないですけどね。

ちなみに、僕たちが使っていたブランドは、「ミリキュー」という機械ミルでした。

 

──ぜひ理系に進学する受験生の皆さんは、一度試してみて下さいね。

では、今日はこの辺りで終わりたいと思います。ありがとうございました。

 

やっし ありがとうございました。